医療法人社団 誠馨会 千葉メディカルセンター

心臓弁膜症

大動脈弁狭窄症

大動脈弁狭窄症は、心不全や突然死の原因の一つです

大動脈弁狭窄症(Aortic Stenosis:AS)は、心臓の出口にある大動脈弁がうまく開かない病気です。これにより血液が全身に送り出されにくくなります。進行すると、息切れ、胸の痛み、失神、不整脈などの症状が現れ、重篤な心不全や突然死を引き起こすこともあります。無症状で進行する場合も多いため、早期発見と適切な治療が重要です。

早期に循環器専門医による診断と治療を受けることが重要です

大動脈弁狭窄症(AS)の主な原因は加齢を背景とした動脈硬化性弁変化であり、発症後は非常に予後が不良となります。日本では加齢に伴う弁の石灰化(カルシウムの堆積)が最も多い原因となっています。日本での罹患率は60~74歳で2.8%、75歳以上で13.1%と報告されており、60歳以上の大動脈弁狭窄症の潜在患者は約284万人、そのうち手術が必要な重症患者は約56万人と推計されています。1)

高齢化が急激に進む日本では、大動脈弁置換術を要するAS患者さんは増加することが予測されています。一方で、治療適応と考えうる重症AS患者さんの多くが治療を受けていないとの国内調査報告があります。

  1. De Sciscio P, Brubert J, De Sciscio M, et al. Quantifying the Shift Toward Transcatheter Aortic Valve Replacement in Low-Risk Patients: A Meta-Analysis. Circ Cardiovasc Qual Outcomes 2017; 10: e003287.
  2. Committee for Scientific Affairs. Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2024 Dec 30;73(2):133.

経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)

TAVI(Transcatheter Aortic Valve Implantation)は、従来の開胸手術と比較して画期的な低侵襲治療法です。従来、大動脈弁狭窄症(AS)の治療は、胸を開く外科的大動脈弁置換術が主流でしたが、日本では2013年から経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)が導入されています。TAVIは医療用の管(カテーテル)を使って生体弁(人工弁)を埋め込む治療法です。胸を開かず、心臓を止めずに行うため、体への負担が少なく入院期間も短いことが特徴です。この治療法により、これまで手術が難しいとされていた高齢の重症AS患者さんにも多く適用できるようになりました。

また、近年、TAVIの適応は大きく拡大しています。当初は外科的手術不可・高リスク患者さんに限られていましたが、現在では外科的手術が可能な患者さんを含め、すべての症候性重症AS患者さんに検討可能となりました。(3-4)

  1. N Engl J Med 2020;382:799-809
  2. N Engl J Med 2024;390:1572-1583
  3. N Engl J Med. 2019 May 2;380(18):1695-1705.

TAVIで使用する生体弁(人工弁)

提供:エドワーズライフサイエンス合同会社

TAVIのアプローチ

TAVIには、複数のアプローチ方法があります。太ももの付け根の動脈から挿入する「経大腿アプローチ」、肩の動脈から挿入する「経鎖骨下動脈アプローチ」、胸骨上部を小さく切開し、心臓のすぐ上の血管から挿入する「上行大動脈アプローチ」や心臓の先端(心尖部)から挿入する「経心尖アプローチ」などがあります。

どのアプローチ方法を選択するかは、個々の患者さんの状態を加味して決定いたします。

経大腿アプローチ

鉛筆ほどの太さに折りたたまれた生体弁を装着したカテーテルを、1cm弱の小さな穴から太ももの付け根にある大腿動脈に入れ、心臓まで運びます。生体弁が大動脈弁の位置に到達したらバルーンを拡張し、生体弁を広げ、留置します。生体弁を留置した後は、カテーテルを抜き取ります。生体弁は、留置された直後から患者の新たな弁として機能します。

提供:エドワーズライフサイエンス合同会社

当院の治療方針・治療体制

患者さんのご希望を尊重いたします

大動脈弁を取り替える手術治療は、外科的大動脈弁置換術(SAVR)と経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)の二つの選択肢があります。個々の患者さんの様々な要素を加味し、どちらの手術治療が適しているのかを検討し、事前説明をおこなった上で、患者様のご希望を伺ってまいります。

多職種で構成されたハートチームが患者さんを支援いたします

経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVI)は、「カテーテル大動脈弁移植術協議会」の認定を受けた施設でのみ実施可能な治療法です。当院には豊富な経験を持つ心臓カテーテル治療専門医および心臓血管外科医が常勤しており、患者様に質の高い医療サービスを提供いたします。また、治療にあたっては循環器内科医および心臓血管外科医のみならず、麻酔科、臨床工学科、放射線科、検査科、栄養科、リハビリテーション科、看護部、社会福祉士、事務部など多岐にわたる分野のチームワークと高度な知識、技術が不可欠です。診療科、部署の垣根を越えて連携協力し、治療前から退院まで、チーム一丸となって患者さんをサポートいたします。

循環器内科